Participation work – Ayu Okakita『sayonara dance』

https://ayuokakita.bandcamp.com/

I participated as mastering engineer in her work.
I posted liner notes (Japanese only)

Ayu Okakitaさんのアルバム『sayonara dance』にマスタリングエンジニアとして参加させていただきました。
興奮冷めやらぬままに綴ったライナーノーツをここに掲載します。(日本語のみ)

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「sayonara dance」について

この度Ayu Okakitaのアルバム「sayonara dance」のマスタリングを担当させていただきました。

その昔、CDやレコードにはライナーノーツという第三者による解説文が入っていて、それを読むことによって新たな発見や聴き方が変わったりした覚えがあります。

この作品に関わった者の目線から少し制作秘話を公開出来たら、また違う角度からこのアルバムを楽しめたりするのではないかと思い、非公式ながら綴らせていただこうと思い筆をとりました。(筆=キーボード)

とはいえ、作詞、作曲、編曲、プログラミング、レコーディング、ミックスダウンと、ほぼ全てをセルフプロデュースで完成させており、私が介入できた部分は表面的なわずかな部分ですので、私による曲の解釈が必ずしも正しくはないということは前置きさせていただきます。

私が今作品のデモを初めて聴いたのは去年の夏でした。

最初の印象は、日頃ライブでアコースティックギターを担いで歌っている彼女からこのようなエレクトロサウンドが出てくるのかとギャップに驚いたことと(エレクトロニカが好きなのは知っていましたが、まさか作ってしまうとは)、そして、そのバックトラックに非常に強いこだわりの繊細さがあることを感じました。

耳をすまさなければ気付かない消え入りそうな音量で鳴るパートや、バスドラムよりももっと低い周波数に置かれたベースサウンド、楽曲を煌びやかにする2Khz付近にサウンドがすっぽりとなかったりなど、ミックスにおいてこうあるべきというセオリーに当てはまらない内容なのに、絶妙なバランスで成り立ち、マットな質感を巧みに作り出していて、それが偶然ではなく全曲に対して共通しているので、彼女の作りたい音は確信的にはっきりと表現されていたのです。

デモを聴いたその時には、のちに私がマスタリングのエンジニアを担当することになるとは想像すらしませんでしたが、彼女のセンスの良いトラックに強く興味を持ち、どのような楽器を使ったのかとあれこれ質問したものです。

その後に私にマスタリングのオファーをくれた時は驚いたものです。
私はマスタリングを専門とするエンジニアではありませんので、世間一般的な知識しかなく、その中で作業が始まりました。

マスタリングとは、楽曲を製品化するにあたり、どのような環境でも老若男女が心地よく聴けるように処置を施す作業の事です。

高級なヘッドフォンから100円均一で買えるスピーカーまでどれでも音が極端に違わぬよう、均等に聴こえるように調整し、CDパッケージに出来るだけ大きい音を収めるため人間が聴き取れない帯域の音はカットし、音を目立たせるためにイコライザーの処置を行い、つたないながらもそのように世間でスタンダードと呼べるマスタリングを私は施しました。

しかし、そのような無難な内容が彼女を満足させることがなかったというのは言うまでもないでしょう。

次に彼女から参考にしたい楽曲が提示されました。

UKのアーティスト「Andy Stott」のものです。

そのリファレンス曲は、低域に全ての音圧を込めたような内容で、iphoneのスピーカーや高速道路を走行中のカーラジオからは何が鳴ってるのかわからないようなサウンドになっており、その激しく偏りの強い曲を聴いて私のマスタリングに対する固定観念は破壊されました。

この楽曲は、クラブハウスなどの超低音を再生できる環境でこそ真価を発揮する内容であり、ノートパソコンに付属するスカスカのスピ―カーなどで楽しむようには作られていなかったのです。

誤解のないように言っておきますが、彼女がクラブサウンドを求めていたという事ではないです。

何が言いたいのかというと、彼女は万人に合わせた商品を作りたいのではなく、自分による自分が好きな作品を作っているのだという事が理解できたのです。

まぁそれにしてもあまりにも極端な参考曲でした、、

とにかく、これをきっかけに視点を変えることにより、私もマスタリングのセオリーという束縛を離れて作業に入ることができました。

もちろんスタンスが理解できたからといってそれでスムーズに事が運ぶわけではありません。

スタートラインに立っただけで、そこからがエンジニアとアーティストの競めぎ合いです。

私もやはり、マスタリングを担うものとしてそれなりの処置は施したいのです。(音を大きく派手にしたり)

しかし、彼女は特にボーカルに関してはマスタリングにより周波数が0.5dbでも変わればすぐ違和感に気付いてしまい、やり取りの後にOKを出すバージョンは結局こちらで施した処理を外したものになっていました。

また、エレクトロニカな楽曲にありがちなサウンドにボーカルを溶け込ますようなミックスは好まず、数値的な分析では、バックトラックに彼女の声の周波数を邪魔する帯域のものが存在していないことが明らかになりました。
つまり、あくまでボーカルのためにサウンドが存在していたのです。

本人に尋ねるとそういった事はまったく計算していないとの事だったので、感覚のみで作り上げたものがたまたまそうなっていたとの事でした。

本人は無自覚でも声を中心に曲が作られているので、エレクトロニカでもアコースティックでも彼女は彼女を保ちながらモノにできてしまうのです。

そして、低音へのこだわりもまた強く、健康診断の耳のテストで使われる様な低い周波数のベースを使います。(これは声と一切干渉しない帯域だからか)
もうそれは聴くと言うより感じると言うような周波数で、CDでは本来カットしてしまうような帯域ですが、もちろんカットはNGです。

そうやって完成した今作品は、本来必要な部分に音がなかったり、本来捨てるべき音がふんだんに含まれていたりと、残念ながら100円均一のイヤホンやラジカセで全てを再現できる優しい内容にはなっていません。(まぁそれをうまくバランスとるのが一流のエンジニアの仕事なのでしょうが、、)

しかし、それなりのヘッドフォンや低域が十分に再生されるスピーカーでリスニングしていただけば、彼女のサウンドのこだわりがより一層届くのではないかと思っています。

再生環境に依存するためライブの場所にも困るかと思いますが、サブウーハーのあるライブハウスでなら一番純度の高い彼女のサウンドを聴けるのではないでしょうか。

大音量でこの「sayonara dance」の100%を全身で聴ける日が待ち遠しいです。

追記:
各曲にも思い入れがあるので、少しコメントを残させて頂きます。(英語が不得意なので、歌詞には触れずサウンド面を中心に)

1.M

眼を閉じるとトンネルの向こうに青い空が見えてくるようなサウンドで、歌詞と綺麗にリンクしていて、始まりの予感を感じさせます。

2.flying

すごい低いベースと4つ打ちのキックで曲のほとんどの音圧を占領してしまっているというたまげた構成。
重い足元とは逆に繊細で隙間を残したミニマルなフレーズがふわふわと浮遊感を出しております。
彼女は隙間を残した音の空間の作り方が非常に上手です。

3.my machine will work

こちらもキックに比重を置いたミニマルで無機質なバックトラックですが、血が通うように音が足されていき、そこに彼女の生きた声が差し込まれます。

4.sayonara dance

アルバムの表題曲。
本人いわくポップな曲調との事ですが、後半にドラムがボーカルとバトンタッチするようにセンターに鎮座し、激しく踊る感じが表現されているのですが、普通はここにベースのリフを絡ませてグルーヴを作ればそれこそポップでダンサブルなロックチューンの完成なのですが、それは行われず、ベースは遠くで全音符で鳴っていて、ドラムは空を切るように響きます。
こういうアレンジの仕方がどこか憂いを感じさせてくれる「sayonara dance」の見事な表現と思っています。

5.Sento

「深く潜り込み、ふつふつとたぎるマグマが燃える」ようなイメージとの事です。
まさにそのままのイメージを見事に表現したサウンドです。
声はFX的に使われているためインスト曲としてサウンドが存分に全面に出てきています。

6.The lights are extinguished

こちらもメロディはなく、インスト曲のような存在です。
「柔らかな闇がブランケットのように覆い被さってくる」とのコメントですが、まさに形がわからないほどの低音が闇のように覆いかぶさってきます。
このアルバムの前半一区切りの場所。

7.come out with me

彼女がミックスダウンに苦労したという曲。
柔らかいベースにくるまれてるイメージとそよ風を感じるイメージを持っているとのことですが、相反するその2つを見事にまとめ上げてます。

8.Valentine

こちらは音圧の半数を聴き辛いレベルの低域(サビで左右に鳴ってるゴゴゴゴという低い音)に降り注いだ問題作。
都会の喧騒の中でも周りをシャットダウンし二人だけの世界になるようなイメージですかね。

9.Hnh

「ちょっと一呼吸」という情報しか得れなかった曲。ここも後半へ向けての一区切りの場所でしょう。

10.moonlight

一番向き合った時間が少なかった曲です。
というのも、彼女がこのアルバムで最後にミックスした曲とのことですが、ほとんど処置がいらないくらいにバランスがとれていたのですぐマスタリングが終わってしまった曲です。
アルバムの作成を通して彼女も進化をとげているのが見え、この曲以降の彼女の作品はまた新たな領域に進んで行くのでは、と予感させられました。

11.typhoon

唯一のアコースティック楽器を用いた曲です。
ギター1本でもこれまでの曲と世界観が変わらないのは彼女の根幹にあるものが常に変わらないということですね。
後半にさりげなく多重録音が使われているのも普段の彼女のライブスタイルを感じさせてくれます。

12.Slow high

当初は収録予定になかったようですが、お願いして収録してもらいました。
解説不要でシンプルにすごくカッコいいです。